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2017年09月23日 19:00 更新

ろくでなし子「子供は母親が見るべき」という、いまだ日本に根付く呪いとは?

アイルランドに移住した、漫画家・ろくでなし子さんが発信したツイートに共感するママ続出! 今回、アイルランドと日本の子育て状況の違いや日本の母親にかかっている「呪い」について伺いました。

Lazy dummy

「イクメン」という言葉がそれなりに浸透している背景には、「育児をする男はエライ」という風潮の影響がある。だからこそ「イクジョ」や「イクウーマン」みたいな言葉は一般的には使われないのである。しかし、「イクメン」という言葉自体が存在することは「育児をする男は珍しい」「育児は女のもの」という感覚が未だに残っているのだろう。

 男は外で働き、女は家を守る、といった考え方はあるものの、さすがに子供が産まれたばかりの時は、あまりにも大変なため、こうした明確な切り分けはできないだろう。多くの家庭では「男は外で働きつつ、余計な飲み会など参加せず残業も短くして女の家事・育児負担を減らす」という状況を作らざるを得ない。

 この状況で育児への母親の負担を減らすべく時に有給休暇を取ったり、保育園の送り迎えを日々行なう父親のことを「イクメン」と呼ぶが、この言葉がある時点で育児をする男が稀有な存在であることが分かる。そんな状況を端的に表したのが、漫画家・ろくでなし子さんの8月7日のツイートだ。ろくでなし子さんは2017年2月に44歳で第一子を出産。現在は夫でバンド、ザ・ウォーターボーイズのボーカルであるマイク・スコットさんの地元・アイルランドの首都ダブリン在住である。以下、ろくでなし子さんのツイート。

日本ではお金持ちの人でも「母親が怠けてると思われたくない」とベビーシッターを頼みたがらない人が多いとシッターさんから聞きました。もちろん子供を見てくれるなら誰でもいいわけじゃありませんが、母親が怠けてはいけないという呪いがとにかく強すぎる

出典: https://twitter.com

(´-`).。oO(何年か前、離婚した知人が「あいつはベビーシッターに子供預けて飲みに行こうとしたんだぜ?母親が見るべきだろ」と言っていて、そこで「俺が見るから一晩くらい遊んでおいで」とも言わず、息抜きを一切与えてくれないパートナーなら、そりゃ離婚するわと思った

出典: https://twitter.com

これを受けて、ろくでなし子さんに3つの質問をしてみた。

ろくでなし子さんに3つの質問

Q1「母親が怠けてはいけない呪い」がなぜ存在する? 父親にはその「呪い」はないのか?

家を守るのは母(女)の務め、男は働いて稼いで家族を養う、という古い家族モデルにこだわる人が多いからではないでしょうか。昔は女性の社会進出がままならなかったのと、引退した祖父や祖母が家にいたりご近所のつながりがあったので、お母さんは子育てを他人に頼ることができて、そのモデルがいくらか機能していたと思います。でも現代は男性も収入が少なく共働きの核家族が当たり前、母子家庭も増え、祖父や祖母など面倒をみてくれる人もいません。

日本人はサービス残業やつきあい飲みを断れないので、お父さんも早く帰ってこられません。女性であるというだけで「家事や育児は当然だ」とし、負担が増えているように思います。また、努力をすることを美談とし、人様に迷惑をかけるなという日本人特有の「無駄な我慢好き」が拍車をかけているように思います。

国が「冷凍食品でいい」と言うアイルランド

Q2:アイルランドで子育てをしていて、日本のような「呪い」を感じることはありますか?

実はアイルランドはカトリック教国で、中絶手術は禁止など、日本とは別の面で厳しいところがあります。1980年代くらいまで、コンドームが薬局で売られておらず、未婚女性が妊娠すると教会に閉じ込められ強制的に尼さんにさせられていた「呪い」はありました。カトリック教会のゴシップ事件(幼児への性暴力発覚)以降、カトリック教会のパワーが崩壊し、現在では女性へのそのような「呪い」はほぼなくなりましたよ。

ただ、中絶禁止の国だからこそ(?)生まれた子供を社会があたたかく迎える空気は感じます。たとえば、乳母車が通りづらい道や階段では、通りすがりの老若男女がさっと手を差し伸べてくれます。お洒落なカフェやパブ(居酒屋)にベビーカーで入っても店員はあたたかく迎えてくれますし、お客側も子連れを嫌がる人を見たことがありません。なのでわたしは夫がツアーで居ない時はしょっちゅう乳母車で独り飲みに出かけてます(笑)。

ワイングラス片手に子供をあやしていても、「お母さんが昼間からお酒を飲んで!」とたしなめたり、眉をひそめる人もいません。むしろ隣の席の人から「あなたが落ち着いて食べられるよう、子供を抱っこしててあげましょうか?」と言われたりします。子供が生まれた時、国から支給される子育てパンフレットを見たら、「子育てで大変なのだから、家が汚かったり夕飯が冷凍食品でも気にしなくていい、適当でいい。お母さんはできるだけ周りの人に頼りましょう」と書いてあり、定期的に子供の様子を見に来るパブリックナースにも同じことを言われました。

--日本ではベビーカーを電車に乗せると舌打ちをされたり、電車や飛行機で赤ちゃんが泣くと「うるさい」とツイートするなどし、これがニュース化されることもあり、毎度ネットでは激論となる。ここまでの話を聞くにつれ、それなりにろくでなし子さんは周囲の理解を感じているのでは。そして、今回の主題である「男女差」についてだ。

Q3:では、「男女差」や「イクメン」について、アイルランドの状況を教えてください。

私が妊娠中だった時、母乳のやり方などのお母さんのためのスクールにいきました。すると、平日仕事を休んで来たと思われる男性のパートナーも多く参加していたことからも、とにかく男性のサポートを日本よりも強く感じます。そういう雰囲気もあってか、ナニー(ベビーシッター)も気軽に頼みやすい雰囲気です。

もちろんお金がかかるので、雇えるのは余裕がある人が大半だとは思いますが、時給1000円~1800円くらいで短時間頼むとかも可能なので、夫婦でちょっとしたディナーやコンサートに出かけるのに利用してる人は日本より多く感じます。夫の連れ子の幼稚園に行くと、子供のお迎えに来ている人が親でなくナニーというのもべつに珍しいことじゃありません。

幼稚園といえば、どこの家庭のお弁当も、パンにバター塗ってチーズはさんでリンゴ入れておしまい、みたいな簡単な感じなので、弁当作りのプレッシャーもないのが嬉しいです。キャラ弁は、作りたい人は作ってもいいみたいです。とりあえず「みんなと同じにしてください」とか幼稚園側からいちいち言われる日本のような空気はありません。兎にも角にも「子供の面倒は絶対に母親がみるべきだ」「母親はしっかりしろ」という日本独特の「呪い」はないのがいいですね。

実家に戻って親戚と会ってきたら…

以上、ろくでなし子さんの見解だが、昨今炎上が続出する企業や自治体のPR動画を見ると、「性差を過度に意識する」感覚が日本には根深いのでは、と感じる。ネットでの話題化を狙っているのだろうが、極端に女性が男性に媚びていたり、エロさを感じさせるつくりが多いのだ。さらには、若くてキャピキャピした女性をチヤホヤする風潮もあり、地味な女性は「需要が違う」と言い放ったりもする動画もある。

「女はキレイで男を立てるもの」「男はどっしり構えて家事などやらずともいい」といった風潮がまだどこかで残っているのだろう。私は母の実家が北九州なのだが、1980年代中盤、祖父母の家には毎年夏休みに帰省していた。そこには、母の弟一家も同居していたのだが、祖母は弟の妻(つまり私にとっては叔母にあたる)のことを「ヨメジョ(嫁女)」と呼んでいた。正確な意味は分からずとも、一段下に見ていることはなんとなく分かった。そして、私の母は食べ終えた食器を流しに運ぶよう指導していたのだが、同じことをやると祖母は血相を変えてこう言った。

「あーた、そげんこたぁせんでよかバイ! ヨメジョばやるっちゃ。男はそげんことしちゃー、いかんとタイ。テレビでも見に行きんしゃい」

 現在92歳の祖母に会いに2016年、九州へ行ってきた。今でも弟夫婦と同居している。さすがにここまでは言わなくはなっていたが、やはり叔父を一番に立て、そして男孫である私が次に立てられる。私の従妹もやってきたが、叔母とともに若干控えめな空気を醸し出していた。なぜか料理の並ぶテーブルに近寄らず、少し離れた場所で正座をしているのである。

 そして、もう一つ印象に残ったやり取りもあった。従妹の娘2人は小学生のため、もはやそれほど手はかからないものの、従妹の夫は「今日は組合の会合があるから酒飲み行く」と言い、従妹に自動車で飲み屋まで送ってもらっていくと話していたのだ。当然帰りは迎えにいかなくてはならない。土曜日の夜だろうが、仕事関連の会合がある。これに行くのも当然とばかりに送ってあげる妻。そんな妻に感謝しつつも、仕事をこなす自分に対するプライドが感じられる夫。初めて見た光景だった。

 まぁ、ここから何らかの一般論を引き出すことは難しいものだが、明確な役割分担がここでは存在することは感じられた。果たして従妹が「今日はパート先の仲間と飲みに行くからアンタ、送り迎えしてね」と言ったらどうなっただろうか。家の長たる祖母は「あーた、オナゴがそげん、酒ばかっくらってなんばしよーとね!」なんて言ったかもしれない。

現に、私の母についても「あーたのお母さんば、タバコは飲むわ、酒も飲むわで、今でも飲みんしゃるとでしょ?」なんて聞いてくるのだ。祖母世代であれば「女は酒・タバコは嗜むものではない」といった意識があるもの。こうした「刷り込み」や「呪い」により、性差が殊更に表面化するのかもしれない。と考えると、アイルランドのろくでなし子さんの子育ては、「呪い」がないのだなぁとつくづく感じ入った。

(中川 淳一郎)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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