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求められた場所で自己実現はしない。弘中綾香の仕事流儀

鈴木 梢

マイナビウーマンのコア読者は“28歳”の働く未婚女性。今後のキャリア、これからどうしよう。結婚、出産は? 30歳を目前にして一番悩みが深まる年齢。そんな28歳の女性たちに向けて、さまざまな人生を歩む28人にインタビュー。取材を通していろんな「人生の選択肢」を届ける特集です。

取材・文:鈴木梢
撮影:洞澤佐智子
編集:井田愛莉寿/マイナビウーマン編集部

凛とした印象を受けるその人は、全てを真っ直ぐ素直に見据えているような目をしていた。

テレビ朝日アナウンサー、弘中綾香さん。2013年の入社半年後には『ミュージックステーション』のサブ司会に抜擢され、『激レアさんを連れてきた。』をはじめとする数々の番組で話題になり、2019年12月には、オリコンニュース「第16回 好きな女性アナウンサーランキング」首位に輝いた。視聴者だけでなくスタッフや共演者からの信頼も厚い。

最近では『あざとくて何が悪いの?』など、本人の価値観やキャラクターを買われた抜擢も急増し、昨年は『弘中綾香のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)でラジオパーソナリティを務め、ウェブ媒体で連載を持ち執筆活動も始めた。

「もともと自分に自信や大きな望みがあるタイプではないんです」。そう口にしたのは意外だったが、その言葉は決して卑下や過剰な謙遜によるものではないことはすぐに分かった。

弘中綾香

求められた場で自己実現しようとはしない

「教育系やメディア系の仕事がしたかった」と話す彼女は、大学3年の冬から始めた就職活動で、最初に内定が出たテレビ朝日のアナウンサー職に決めて早々に就職活動を終えた。

アナウンススクールにはほとんど通ったことがなければ、数々の女子アナを輩出してきたミスコンテストにも出場していない。アナウンサー試験を受けたのは、「テレビ局の採用試験の中で最初にあったから」と話す。まさか受かるとは思っていなかったが、決まった道の縁を信じて、アナウンサーとして働くことを決めた。

弘中綾香

そもそも彼女は、自身の理想を思い描いて仕事をする人間ではない。「何でも結構『これでいいじゃないか』と思う。だから理想とのギャップに苛まれないし、何かに固執するわけでもあんまりない」と話す。

「いろんな方々が私に仕事の適性を感じてくれたから今があるだけで、自分がアナウンサーになるなんてまったく予期できなかったことなんですよね。適性を見いだしていただいた仕事に対して、自分なりの120パーセントを発揮する。そうして次もまた呼んでいただけたらうれしい。それだけです」

やりたいことがないわけじゃないが、求められた場で自己実現をしようとはしない。期待を超えることで自分を認めてほしいというわけでもない。ただひたすら、求められていることをくみ取り、最大限の力で打ち返す。それが彼女の考える“仕事”だ。

弘中綾香

入社して半年が経った頃、2020年に東京五輪が開催されることが決定。彼女は「アナウンサーになれただけでもラッキーだけど、せっかく自国でオリンピックが開催されるなら、キャスターを務められたらいいな」と考えていた。

しかしその後、スポーツ番組どころかニュース番組や情報番組にも起用されることなく、求められるのはバラエティ番組の現場ばかり。適性を見いだされた場所で力を発揮することを重視しているとはいえ、理想と現実のギャップに戸惑うことはなかったのだろうか。

「そもそも自分のやりたいこと全てを、仕事で実現できるなんて思ってないです。どうしてもやりたいことがあったら、実現できる場所を自分で作り出せばいい。与えてもらった場所で自分がああしたいこうしたいじゃなく、そこで自分が今やるべきことをやる。そこは結構割り切っているところですね」

興味の対象をとても狭くして、常に目線は近くに置く

弘中綾香

彼女の発言やキャラクターは、時に批判の的にされる。特にネットニュースやSNSには批判だけでなく、憶測で勝手なことを書かれることも多い。自分自身に関して書かれることには「見えない敵には立ち向かうことをやめた」と話す。

「いろいろ言われがちだし気にしちゃうんですけど、気にしていたらこの仕事やってられないので。自分について書かれているものはもちろん、誰かに関して書かれていることも基本的に見ないし信じません。大事にするのは目の前にいる人の言葉。対面でのコミュニケーションによって得られる情報を重視して、良いことも悪いこともきちんと聞くようにしています」

いつの間にか、目の前の家族や友人の言葉よりも、ネット上で面識のない人が発する言葉に信ぴょう性を感じてしまうことは多いかもしれない。だからこそ彼女は「見ない」だけでなく、興味の対象を意識的に狭めている。

「名前と顔が一致して、コミュニケーションを取っている相手以外に興味を持たないようにしていて。だってキリがないじゃないですか。今の世の中。複雑なつながりや情報が多すぎるから、掘り下げてもしょうがない。誰かのことを検索すればバーっと情報が出てくる時代ですけど、だからこそ常に興味の対象は狭く、目線は近くに置くよう意識しています」

彼女のプロフィールには決まって、「夢は革命家になること」と書かれている。話を聞いているとそれが自己実現ではないことは分かるのだが、果たしてその真意はどんなものなのだろうか。

「世の中にAやBの答えしか用意されていないことに対して、CやDの答えもあるんだよと伝えていきたいんです。私はアナウンサーだし、会社員だし、ともすれば皆さんに近しい立場かもしれない。私の言葉や活動から、いろんな選択肢の可能性を感じてもらえたらと思うんです。この立場を生かして伝えていけることがあるんじゃないかなと」

多岐にわたる活動や歯に衣着せぬ発言は、単なる奔放さに由来するものではない。彼女の姿を見た、言葉に触れた人々が、少しでも自由な選択をできるようになったら。そんな思いが込められている。

しかしながら彼女が最優先するのは“拾ってもらった恩”。「伝えるためにアナウンサー以外の活動をするにしても、本業には差し支えない範囲で取り組みたい」と話す。

大勢の注目を集め愛される弘中綾香という革命家は、とても義理堅い会社員であるという前提を忘れてはならない。

弘中綾香

※この記事は2020年07月23日に公開されたものです

鈴木 梢

1989年、千葉県市川市生まれ。出版社や編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に日本のエンタメ/カルチャー分野の企画・執筆・編集を行う。

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