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会社のトイレで「死んじゃおっかな」と泣いた日

【特集】働く女は今日も戦う

アルテイシア

働く女性は毎日どこかで何かと戦っている。“働く女(=戦う女)”に焦点を当てて、仕事観に関するインタビューやコラムを掲載。働くすべての女性たちを応援する特集です。今回はコラムニストのアルテイシアさんが、自身の会社員時代を振り返りながら働く女性にエールを送ります。

現在はフリーランスの物書きの私だが、20代の頃は某大手広告会社で働いていた。

退職して15年たつが、今でも当時の悪夢を見て汗びっしょりで目を覚ます。そして「ベトナム帰還兵かよ……」と呟く。

ここでベトナム帰還兵という比喩が出るのが、中学時代に『BANANA FISH』の夢小説を書いていた世代である。ちなみに私の最推しはシンだった。

その頃の自分に言いたいのは「よく逃げた! 偉いぞ!」である。私は入社6年目で会社を辞めたが、あのまま続けていたらマジで死んでいたかもしれない。

ゴチャゴチャ考えず、まずは逃げろ

「終わらない悪夢を見ているようだったよ……」と進撃のユミル顔で続けると、当時は「仕事のために心臓を捧げよ」という職場で、営業目標を外すたび「なんの成果も得られませんでしたッッッ!!」と自分を責めて絶望していた。

「こんな役立たずのポンコツは生きている価値がない」と追いつめられ、夜、眠れなくなって「もうアカン」と心療内科で診断書をもらい、1カ月休職したあとに退職した。あのとき「もうアカン、逃げよう」と決意した自分を褒めてやりたい。

めっちゃ昔の中国の偉い人も言っている。「三十六計逃げるに如かず」と。これは「アカンと思ったらゴチャゴチャ考えず逃げろ」という意味だ。

「逃げちゃダメだ」「逃げたら負けだ」「逃げるは恥だ」「逃げてどうする?」とかゴチャゴチャ考えている間に、人は逃げる気力すら奪われる。学習性無力感(長期間ストレスにさらされた生き物が、逃げようとする行動すら起こさなくなる状態)に陥って。

漫画『うつヌケ』には、仕事のストレスから鬱病になり、何年も苦しみ続けた人々が登場する。彼らは「過去に戻れたら、自分を拉致してでも仕事からひきはがす」「なんとか死なずに済んだ理由は、仕事から逃げたからだ」と振り返る。

私は鬱病になる手前で逃げられてラッキーだった。退職後、紆余曲折の末に物書きになり、今もポンコツではあるが、多少は誰かの役に立っていると思える。著書やコラムを読んで感想をくれる読者のみなさんのお陰だ。

また今の仕事は自分に向いているため、がんばるのも苦じゃない。この場所でがんばるのは無理と思ったら、しばらく休んでから、また別の場所でがんばればいい。

むしろひとつの場所に縛られないほうが、自分に向いた場所が見つかるチャンスが増える。

がんばりやさんは、自分を責める

働く女子と話していて思うのは「みんな真面目ながんばりやさんだ」ということだ。真面目ながんばりやさんは、仕事がつらいときに自分を責める。

「これぐらいで辞めたいなんて思う自分はダメ」と自責する彼女らに「違う、そうじゃない♪」とグラサンをかけて鈴木雅之ばりに耳元で熱唱したい。

彼女らの話を聞いていると、本人は悪くないケースがほとんどだ。激務すぎるブラックな環境だったり、上司や同僚から理不尽な要求をされたり、パワハラやセクハラ被害に遭っていたり……などなど。

それでも真面目ながんばりやさんは「我慢できない自分が弱い」「ここで逃げるのは甘えだ」と自分を責めてしまう。20代の私もそうだったが、今になって振り返ると「どう考えても、あの会社はおかしいだろ」と思う。

広告会社時代、私は一部の男の上司から「ま〇〇」(女性の陰部を指す言葉)と呼ばれていた。マイナビウーマンでの表記上もアウトだが、誰がどう考えてもアウトな呼び名なので、3文字中2文字伏せている。

また男の先輩から「巨乳、犯すぞ」と冗談で言われたり、通勤電車で痴漢に精液をかけられたときに「顔射されたのか?(笑)」と男の上司にからかわれたりもした。

そんなコンプライアンス無法地帯は特殊な世界だ、と言われるかもしれない。けれども、若い女子から「そこまでひどくないけど、うちの会社もセクハラや女性差別はあります」という声が寄せられる。

25歳女子は「会社の飲み会で『○○ちゃんにおっぱい触らせてもらえよ』と言われた」と話していたし、28歳女子は「男性陣が女子社員の顔面偏差値ランキングをつけていて、『おまえは最下位クラスだから(笑)』と言われた」と話していた。

そこまでひどくなくても、性的なからかいや見た目イジリをされたと話す女子は多い。

これがジェンダーギャップ指数121位のヘルジャパンの現実である。世間で「普通」と言われる男性たちの感覚が麻痺しているのだ。鈴木雅之からウェズリー・スナイプスに変身して、ブレイドの刀で滅多切りにしてやりたい(※)。

※アメリカのアクション映画『ブレイド』。ウェズリー・スナイプスは人間とヴァンパイアの混血として生まれた主人公の青年ブレイドを演じる。

私が人前で泣けなかった理由

広告会社勤務時代の私も激務で徹夜明け、すっぴんで出勤したら「今日は特にひどいな」と男の上司に言われて、トイレで「死んじゃおっかな」と泣いた日のことを覚えている。

つらいことがあるたび、会社のトイレで泣いていた私。人前でタイツの股の部分のズレはなおせても、泣くことはできなかった。

一度でも泣いてしまうと「女」として扱われて、「人間」として見てもらえなくなると思ったから。「やっぱり女は職場で涙を流すような、弱くて感情的な存在だ」と決めつけられ、対等な仕事のパートナーになれないと思ったから。

しかし「ま○〇」と呼ばれている時点で、はなから人間扱いされていない。それにどう考えても、職場で理不尽にキレまくるおっさんらのほうが感情的だったと思う。

「女は感情的」というディスがあるが、駅員や店員に大声でキレているのは大抵おじさんやおじいさんだ。自分でも何を言ってるかわからない、ポルナレフ状態(※)になっている男性もよく見かける。

※ポルナレフとは『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するキャラクター。想像を超える出来事が起きた際に「あ……ありのまま、今、起こったことを話すぜ!」と動揺しながら話し出すが、聞いている側は理解できない。

にもかかわらず、女性が怒りを表すと「ヒステリーババア」「更年期ですか?」と揶揄される。

だから働く女たちは「感情を出しちゃダメ、理性的に振る舞わなきゃ」と注意して、かつ「女性らしい細やかな気づかい」で他人の感情ケアを期待され、かつ「職場の花」として見た目を華やかにしろと要求され、それに応えないと「女子力が低い」「それじゃ結婚できないぞ(ドッ!)」とディスられる。

「ぶっ殺すナリ」とブッコロ助になって当然である。むしろ女子は全員、心にブッコロ助を飼ってほしい。そして心の中でムカつく奴らを滅多切りにしてほしい。まっとうに怒れることは、心が健全な証拠なのだから。

男社会は「怒る女」を寄ってたかって潰したがる。女性差別に声を上げると「攻撃的なフェミニスト」とレッテルを貼られるが、私はそんなレッテルなど屁でもない。そんな人々に認めてもらう必要などないからだ。

私にとって大切なのは、この世から女性差別を殲滅することだからである。

「女は子どもを産むから」と進学や就職で差別され、産休・育休を取ると迷惑がられる社会で「じゃあ子どもを産まない」と選択すると「けしからん、ワガママだ」と責められる。

「女には期待しない」「がんばっても無駄だ」と頭を押さえられ、がんばらないと「やっぱり女は仕事ができない」と見下される。

そんな地獄を次世代に引き継ぎたくない。だから私は声を上げ続けるし、同時に下の世代の女の子たちに言いたい。「こんな地獄で、生きてるだけで偉い!!!!」と。

おわりに、今日も戦う女性たちへ

生きてるだけで偉いんだから、心身が壊れるまでがんばらないでほしい。もうアカンと思ったら「仕事続けるの限界だな、旅に出たい玄界灘、読むと強くなるああ播磨灘Yeah♪」とライムを刻んで辞表を出そう。

そのためにも自分の感情を大切にして、一番にケアしてほしい。「つらい、もう無理」という感情を「我慢しなきゃ」「がんばらなきゃ」と理性で押し殺すことで、心身に不調が生じる。

そんなときはとにかく休んで、信頼できる人に気持ちを吐き出してほしい。「自分は今とてもつらい、弱ってる」と素直に言葉にできることが、女子のすばらしい強みなのだから。

とはいえ本当に弱ってるときは、自分の本心がわからなくなる。MUST(~しなきゃ)の声が大きすぎて、WANT(~したい)の声が聞こえなくなってしまう。

かつての私も「学生時代から憧れて入った会社だし、大変だけどやりたい仕事だし、もっとがんばらなきゃ、こんなところで辞めたくない」と思っていた。でも本心はめっちゃ辞めたかったし、全然やりたい仕事でもなかった。

MUSTとWANTがごっちゃになってるときにおすすめなのは「もし今2兆円あったら?」と自問することである。もし当時の私が2兆円ゲットしたら、0.01秒で会社を辞めただろう。

庭から石油が湧いた、尻から天然ガスが発生した、股から金塊を発掘した……。なんでもいいから2兆円ゲットした自分を想像してみれば、本心がハッキリする。

会社のトイレで「死んじゃおっかな」と泣いていた自分に伝えたい。死ぬなんてもったいない、40代の私はハチャメチャに楽しく生きてるから、会社なんかに人生を奪われないでくれよな、と。

会社を辞めて物書きになったあとも、人生はそこそこ波瀾万丈であった。母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮全摘……などのエピソードを綴った新刊『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』が絶賛発売中(宣伝)

そんなわけで大変なこともあったが、会社員時代のつらさに比べたら屁でもないし、「屁のツッパリはいらんですよ」である。言葉の意味はよくわからんが、とにかく毎日働く職場で受けるストレスは一番キツい。

だから今日も戦う女性たちへ。どうか無理をしないで、ひとりでトイレで泣かないで。あなたたちは、生きてるだけで偉いのだから。

(アルテイシア @artesia59

INFORMATION

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生涯のパートナーを求めて七転八倒し、オタク格闘家と友情結婚。これで落ち着くかと思いきや、母の変死、父の自殺、弟の失踪、借金騒動、子宮摘出と波乱だらけ。でも「オナラのできない家は滅びる!」と叫ぶ変人だけどタフで優しい夫のおかげで、毒親の呪いから脱出。楽しく生きられるようになった著者による、不謹慎だけど大爆笑の人生賛歌エッセイ!!

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※この記事は2020年02月09日に公開されたものです

アルテイシア (コラムニスト)

作家。神戸生まれ。著書『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった 』『アルテイシアの夜の女子会』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『59番目のプロポーズ』ほか、多数。

●Twitter:@artesia59

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