お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

「本当の天然女子」は決してモテない理由

マイナビウーマン編集部

最近「あざとい女」を久しぶりに見た。電車のなかで見た。

千葉方面から都内に向かう電車は、その日も安定の乗車率200%越え。

ホームに並ぶ私のすぐうしろにひと組のカップルがいた。見た感じ、彼は普通のサラリーマン、彼女もかわいらしいOL風女子。ただその彼女は、満員電車に乗り込むとき体を押し込む力がラグビー日本代表並みの力強さだったのだ。ほぼタックル。

まあ、あの電車に乗り込もうと思うなら相当の押しの強さが必要。彼女に押し込まれる形で私も乗車。マジ感謝。

見かけによらずなかなか力強い彼女だなと思っていたその時。「いたぁい……」と聞こえた。振り向くとその彼女である。おい、どうした。

「すごい混んでるもんね。次で降りる?」

と心配そうな彼氏。たしかにこの路線に乗りなれてない人は本当にびっくりするし、しんどいだろう。あと30分もすればピークも過ぎるし、混み具合はマシになる。降りてコーヒーでも飲んでおいで。そう思った矢先、彼女がこう答えた。

「ちがうのぉ、口内炎かんじゃったのぉ」

あっぱれである。ブラボーである。

密室200%で話しているのはこの2人だけ。もうここは舞台。静寂のなか。女が続ける。

「人がいっぱいでびっくりしてかんじゃった」

ううん。あんた、めっちゃいい突きしてた。「リーチ マイケルかな?」ってくらい。こんな時、彼氏はなんて言うと思います? 彼氏がなんと言ったか。そこが今回の論点だ。

「もう、ほんとに天然なんだから」

みなさん。おわかりだろうか。

このやりとりのなかに彼女の意図的な「彼のいとしみ」を増加させるテクが隠れていることを。普通はこの状況下で痛いと言われると、満員電車で体が痛いのだと思う。でも彼女はまったく関係ない口内炎が痛いという。

いまそれ言う必要ない。でも言っちゃう。ちょっとおバカさんで意表を突くその発言に、彼もほっこり。ふふふと言い合いながら2人はおでこを突き合わせた。

まあ、別にいいけど。別に全然いいですけどね。

私はキスできるくらいの距離で密接しているおっさんのネクタイの柄をじっと見つめながら、大学時代に仲がよかった「ゆりちゃん」のことを思い出していた。

天然ボケを演じるだけで「モテる時代」があった

時代は2000年代初頭にまで遡る。

あの時代はいまよりずっと天然ボケの女の子がかわいいと思われていた時代だったように思う。だから、彗星のようにこりん星から舞い降りてきたゆうこりんは人気者だったし、あの浜崎あゆみもデビューしたころはとんでもない天然ボケキャラを炸裂させていた。平成生まれのみんなは信じられないだろうけど。

だから天然ボケを演じていれば、手っ取り早く男子から一目置かれることができた。

合コンで「君ってもしかして天然?」と言われたら勝ちみたいな時代。「そんなことないよぅぅ」ってほっぺを膨らませておけば、かわいいなって思ってもらえるような時代。

だから正直にいうとわたしもちょっとバカなふりをしてみたり、男の子が自慢げに話すもんならわざとマヌケな質問をしてみたりと努力した。

でも、私はある女の子との出会いでそんなくだらない努力をやめた。

その子は、ゆりちゃんという。

ゆりちゃんは、おしゃれでかっこいい女の子だった。当時流行っていたHIPHOPもくわしかったし、本が大好きでサブカルチャーにも造詣深く私が知らないことをたくさん教えてくれた。

年ごろの女子大生だった私たちは当然ステキな彼氏がほしくてしかたないので、幾度となく合コンに出向いた。

でも、ゆりちゃんは毎回いろんな意味でだめだった。天然ボケを演じられないのだ。自分で言うのもなんだけど私たちは、京都のわりと有名な大学に通っていた。

だからこそ、普通の女子よりおバカである必要があると私は信じていた。そのギャップを駆使して男子を安心させなければと焦っていた。今思うとマジでくだらない。

でもゆりちゃんはだめだった。いつもなぜかだめだった。

そういう空気を読んで適応できないのだ。出されたクイズは食い気味で正解を答えてしまう。いきなり東電OL殺人事件の話をしてしまう。そして、気に入った男子にその本を無理やり貸そうとしたりする。

かわいいだけの天然ボケなんてありえない

いつものように収穫なしの合コンを終えて、2人で夜の京都をふらふら歩いていた。

そりゃ私だってモテないけど、ゆりちゃんのモテなさがものすごい。私なんかよりずっとかわいいのに。合コンで死ぬほどがっついて料理を食べまくったくせにまたクレープ食べたいとか言い出したゆりちゃんに、私はイラッとして思わず言ってしまった。

忘れもしない、あれは四条河原町通りのOPAの前だった。

「なあゆりちゃんさ、男子に好きな食べ物聞かれたときに毎回、もち米って言うのやめえや。何あれ、ボケ?」

立ち止まったゆりちゃんは苦虫を噛みつぶすような顔をした。あの顔を私は一生忘れない。そしてこう言ったのだ。

「やっぱ私ってなんかおかしいんかなぁ……」

このときはっきりと思った。

これが本当の、真の、まごうことなき天然ボケである。こちらがどこに出しても恥ずかしくない純度100%の天然ボケになります。と、ゆりちゃんをいますぐ誰かに差し出したい気持ちになった。

それ以来私はバカなふりを一切やめたし、天然ボケっていわれて喜んでいるような女を一切信用しなくなった。そして何よりおバカな(フリをしている)女の子しか相手にできないような男子を見下して生きてきた。

苦しいのだ。本当の天然ボケって。ものすごく生きづらいのだ。私は4年間ゆりちゃんに寄り添い彼女の生きづらさを見てきた。

ダイエットするといって増えるわかめをぽりぽり食べて、腹のなかでわかめが広がり身悶えるゆりちゃんのために救急車を呼んだのも私だし、酒のペースがわからず飲みすぎて寝ゲロをするゆりちゃんがのどをつまらせて死なないように寝ずの番で監視したのも私だ。

考えてみてほしい。天然ボケとは総合的なものだ。

かわいいだけの天然ボケなんてありえない。天然ボケって迷惑なのだ。本来うとましいものだ。かわいいと許される範疇でボケをかましている女子は絶対に天然ボケじゃない。むしろ賢い。目の前の男なんかよりずっと賢いしあざとい。

まわりに天然ボケでかわいい子がいるなら一度考えてほしい。

その子は、酔っ払いのケンカを近くで見物しすぎて、関係者とみなされ警察に連行されたことはあるか(このときだって私が夜中に警察まで迎えに行った)? 合コンで酒のペースを守ろうと30分ごとにアラームを設定して1杯ずつ頼んだりするか? ピピピっとなるたび変な空気にさせて、幹事の女子に無視されたことはあるか?

天然ボケの女の子がタイプとか言ってるそこの男子よ、ここまでひっくるめてその子の面倒見る覚悟あんのか? あるならいますぐゆりちゃんのライン教える。

合コンや男子の前だけで発動する天然ボケなんてない。天然ボケとされている女子がいると、私は必ずゆりちゃんを思い出す。天然ボケを演じる女子たちは生きづらそうどころかモテモテでご機嫌だ。「ええ~わかんなあい~」と言ってる女の“わかってる”具合はすごい。

今年ももうすぐ終わる。今年こそ、帰省したらゆりちゃんに会いに行こう。

相変わらず生きづらい人生を一生懸命生きてる本物の天然ボケなゆりちゃんが私は大好きだ。だって、私にとって一番信用できる友だちだから。

(マイナビウーマン編集部)

※画像はイメージです

参考記事はこちら▼

あなたの天然女子度は? 診断でチェックしてみましょう。

※この記事は2018年12月16日に公開されたものです

SHARE