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大阪の遊女が実践! 相手によって柔軟に変えていたのは態度だけではなく●●だった

堀江 宏樹

布団大坂・新町の遊女は、客とのコミュニケーションを大事に、会話重視のフレンドリーな接客を心掛けていました。新町の遊女の評判記にあたる『難波鉦(なにわどら)』という書物からは、それがよくわかります。この本は、新町の様々なハイクラスな遊女にお客が質問をするという形式で書かれているせいもあるとは思いますが、遊女たちが非常に巧みなトークをするのが印象的です。現代も大阪人は「しゃべり」が達者なイメージがありますが、江戸時代の大坂でも遊女として大成するには「しゃべり」が必須要素だったようですね。

そして、この大坂遊女の「しゃべり」のテクに、現代女性使えそうなポイントは多数。たとえば、遊女の言葉は、思わせぶりなのが重要ですが、遊女は客が金持ちか、貧しいかによって、言葉や態度を変えて接客せねばなりませんでした。

客の男は変名などを使い、身分を隠して遊郭に来ることが非常に多いです。大坂・新町の遊郭では江戸・吉原や京都・島原では早々に廃れてしまった、顔を隠すための頭にかぶる笠のレンタルサービスが長く続くなど、この手のプライヴァシー保護に熱心でした。このため、遊女は客の着物など外見より、言葉遣いや立ち居振る舞いが下品でないかどうかに注意し、客の本当の職業やステイタスを自分の目で暴かねばならないのですね。
もし、ホントは金持ちじゃないだろうなと思う相手には、逆に行儀良く振る舞い、見え透いたお世辞もいわず、お酒も飲まない……つまり客が払えない可能性も出てくるから、金をあまり使わせないのが大事だそうです。一方、相手がお金持ち、もしくは身分の高い人だと見抜けば、逆に「わざと自堕落に、物ごとに慇懃にせず」……つまり、大胆にふるまい、その男に意地悪するくらいのほうが喜ばれたそうですよ。

ピロートークも重要です。「他の女のところに行ってしまったと思っていたのに、来てくださったのはホントに驚いたわ」「好きなのは私だけって紙に書いて誓って」などと、イヤミをこめて話すと、喜ぶのは貧乏な男だそうです。久しぶりに来たからこう言われるのですが、経済的な理由ではなく、浮気のせいと思われているのが嬉しいのでしょう。
一方、金持ちは、この手のイヤミを嫌うのだとか。金持ちの男は「美人だから奔放」なのがよく、「遊女のアンタが別の男にモテてることはわかってるんだから、オレに喜ばれようと、一途さをアピールとかウザい」と感じるわけです。貧乏な男ほど、きれいな女に「美人だけどマジメ」、そして「モテるけどオレに対しては一途」といった、逆説的な要素を求めたがるわけでしょう。

こうして見ていくとホントに恋愛のスタイルって普遍的なものなのだなぁ、という気がしてきてフシギです。

(堀江宏樹)

※写真と本文は関係ありません

※この記事は2015年06月16日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


角川文庫版『乙女の日本史 文学編』が7月25日、幻冬舎新書として『三大遊郭 江戸吉原・京都島原・大坂新町』が9月30日にそれぞれ発売。

 

その他近刊に『乙女の松下村塾読本 吉田松陰の妹・文と塾生たちの物語』(主婦と生活社)、『女子のためのお江戸案内
恋とおしゃれと生き方と』(廣済堂出版)など。文庫版『乙女の日本史』ともども増刷中。

 

監修として参加の、音楽家バトルファンタジー漫画『第九のマギア』(メディアファクトリー)の第一巻も好評発売中!


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