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仕草や言葉ひとつで、男客の気持ちをコントロール! 遊女が実践した男性操縦術

堀江 宏樹

琴遊女たる者、仕草や言葉ひとつで、男客の気持ちをコントロールせねばなりません。大坂・新町の遊女評判記である『難波鉦』から、現代人もマネできそうな、男性操縦術を学びましょうか。

今回ご紹介するのは、遊女の復縁術です。現代でもささいなことで失恋し、復活愛に期待する女性、多いですよね。職業的にお客と恋愛をせねばならない遊女も、客を振る、なんてことが日常行為でした。男とケンカ別れしてはじめて、「いい人だったかもしれない」と気付いて恋しくなる……なんて都合のいいことも当時から、よくあったようですね。
こういう時の遊女は、といえば、最初から彼に復縁を迫るラブメール(恋文)を送るのではなく、まず彼の友人たちに連絡しました。

そして自分から振った・相手から振られたに関係なく、「振られてしまったけど、あまりに恋しいから会いたい。今日の●時くらいから……」ということを彼の友人たちに、彼に伝言してもらうのだそうです。共通の知人を間に挟むことが出来れば、応援団を得たようなもの。彼だけでなく、彼の友人とも仲良くしておくのは大事ですよ!

その後、もし彼が来て、謝ろうとしてくれたら、「そんなこといわないで! 無理なことをあなたにいっぱい言ったのは私。ゴメンなさい」、原文では、何とて左様にいたむやうに御申候や。方様こそ様々無理なことばかり(略)、などと、先に謝り倒します。
でもその後、「あの時の私は本気で怒っていたわけではない、でも、あなたも私に本気で怒ったわけではないのでしょう」という確認作業もお忘れ無く。

基本的に、男がやって来た時点で彼も復縁したいと思っているのは確実なんですが、男が土壇場でうまく交渉に乗ってこない場合は、音楽で攻めるのが大坂の遊女流。三味線を弾いて、哀れな歌などを歌って聞かせます。現代風にいうならカラオケに連れて行くとか、あるいは切ない音楽をかけてみる、とかでしょうか。

切ない気持ちをくどく書き連ねた手紙を書くのは、最終手段だそうです。復活愛を希望する現代女性の大半は、最初にそういうメールを送っていますよね。この時点で、男は辟易としてしまうのかも。そして、ここまでしても相手が復縁に乗ってこない場合は、スッパリあきらめるべきだそうです。

女側の浮気が発覚して、男が激怒した場合の取り繕い方なども、遊女にはありました。『難波鉦』には定家(ていか)という源氏名の遊女が出てきます。
彼女は色んな男性に「あなたとの関係だけは仕事ではない、本気であなたに恋をしていることの証として、髪を切ったり、ツメを切って渡す」という「心中立て」を、やりまくっていることが一人の客にばれてしまいます。

その男が怒りにまかせて乗り込んできたという、相当な修羅場の逃れ方は次の通り。
まずはとにかく涼しい顔をすることなんですね。つまり、男の興奮に自分も飲まれてしまわないこと。下手なウソや、この場での言い訳は禁物で、男の疑惑が事実だと最初からハッキリ伝え、開き直ります。

しかし、「相手の男はただの田舎者」と、その男以外の存在を軽くみるような云い方をしているのですね。遊郭で、田舎者あつかいは最大の侮蔑でした。「酒の席で盛り上がっただけ」と説明します。仕事で「心中立て」しただけなんだってば、という感じ。「そういうのが遊女のお仕事なのよ」とも定家は言っていますね。浮気がばれたら、ウソもつかず、否定もせず、事実と認めて居直る。さらに相手のことは何とも思っていない……というように畳み掛けていく感じ。使えそうでしょう?(笑)。

それでもし男の気持ちが落ち着いてくるようなら、はじめてハッキリ謝って、それからベッドへ……。

客の男の嫉妬は、本気で遊女にのぼせていることの証ですから、彼が金持ちなら大歓迎だったでしょうね。遊女の勤めには、この手の男性コントロール術が欠かせなかったのです。

(堀江宏樹)

※写真と本文は関係ありません

※この記事は2015年06月14日に公開されたものです

堀江 宏樹

プロフィール歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や、貴族文化などに関心が高い。

公式ブログ「橙通信」
http://hirokky.exblog.jp/


角川文庫版『乙女の日本史 文学編』が7月25日、幻冬舎新書として『三大遊郭 江戸吉原・京都島原・大坂新町』が9月30日にそれぞれ発売。

 

その他近刊に『乙女の松下村塾読本 吉田松陰の妹・文と塾生たちの物語』(主婦と生活社)、『女子のためのお江戸案内
恋とおしゃれと生き方と』(廣済堂出版)など。文庫版『乙女の日本史』ともども増刷中。

 

監修として参加の、音楽家バトルファンタジー漫画『第九のマギア』(メディアファクトリー)の第一巻も好評発売中!


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