お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

救急救命士の業務拡大。私たちの「もしも」にどんな影響がある?

鈴木哲司

救急救命士法施行規則の改正にともない、今年の4月から救急救命士の業務範囲が拡大しました。新たに追加された内容は、(1) 心肺機能停止前の静脈路確保と輸液、(2) 血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与の2つです。

これらが解禁されたことでどのような変化があるのでしょうか。一般社団法人日本救急救命士協会会長の鈴木哲司さんに聞きました。

■そもそも「救急救命士」ってどんな仕事?

「これまでは、救急救命士が救急救命処置を行えるのは心肺機能が停止状態になった重度傷病者に限られていました。でも、今回の改正で心肺機能停止前の重度傷病者に対する処置ができるようになりました。現場で早急に、適切な処置ができれば、救命率を高め、後遺症を軽減することにつながります」(鈴木さん)

救急救命士は1991年に導入された国家資格です。一般の救急隊員と最もちがうところは、従来は医師にしか許されていなかった救急救命処置が行えること。これらは「特定行為」と呼ばれます。救急救命士は救急現場から病院に搬送するまでの間に、無線や携帯電話などで医師と直接連絡をとりあいながら、医師の指示のもと、処置を行います。

「救急の現場では“チーム医療”が不可欠です。現場に医師がいない状態でも速やかに指示を実行するために、医師と救急救命士は密接なコミュニケーションが必要です。そのため、普段から研修会などを通して、医師と顔の見える関係を築くよう、心がけています」(鈴木さん)

■今回の改正が効力を発揮するシチュエーションとは

救急救命士だけに許される救急救命処置は「特定行為」と呼ばれます。今回の改正で加わった2つの業務も特定行為のひとつ。具体的にどのようなシチュエーションで効力を発揮するのでしょうか。

(1) 心肺機能停止前の静脈路確保と輸液

「交通事故などで大量出血があった場合、血液の代わりになる輸液を用い、状態が悪化しないようにします。また、いったん心肺停止になると、なかなか血管が浮き出てこなくなり、輸液しようにも注射針が刺しづらくなります。心肺停止前に輸液のルートを確保しておけば、医療機関に到着してからもスムーズに処置ができるという利点もあります」(鈴木さん)

(2) 血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与

「血糖測定やブドウ糖溶液の投与が必要になるのは、主に糖尿病です。糖尿病は血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる状態を言いますが、治療中は逆に血糖値が低すぎる『低血糖』に陥ることがあります。重篤になると意識障害や昏睡状態に陥ることがあります。今回、業務範囲が拡大したおかげで、救急救命士が現場で血糖を測定し、必要に応じてブドウ糖を投与できるようになりました」(鈴木さん)

ただし、これらの処置を行うためには追加講習を受ける必要があるため、実施状況は自治体によってもばらつきがあるそう。新しい業務はまだスタートしたばかり。全国的に普及するまで、まだ少し時間がかかりそうです。

☆20代~30代女性にはこんな影響が☆

「統計から言うと、20代〜30代は不慮の事故や交通事故が多いです。事故により外傷をうけて大量出血したとき、今までは心肺機能停止状態以外に実施できなかった輸液を行うことができるようになりました。輸液は一時的に血液のかわりに使われるものです。結果、状態の安定をはかりながら医療機関に搬送できるようになったんですよ」(鈴木さん)

(取材協力:鈴木哲司、文:ミノシマタカコ+ガールズ健康ラボ)

※画像はイメージです

※この記事は 総合医学情報誌「MMJ(The Mainichi Medical Journal)」編集部による内容チェックに基づき、マイナビウーマン編集部が加筆・修正などのうえ、掲載しました(2018.08.09)

※本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください

※この記事は2014年05月13日に公開されたものです

鈴木哲司

日本救急救命士協会会長、帝京平成大学健康メディカル学部 准教授。2001年特定医療法人徳洲会東京本部、2004年帝京大学医学部附属病院救命救急センター、2005年帝京平成大学現代ライフ学部講師。著書に『病院前医療を読み解く −救急救命士制度改革に向けて−』(知玄舎)など多数。

この著者の記事一覧 

SHARE