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【新連載】田舎に戻った私が出会ったのは、やさしくて頼れる人……

Story1 ★時間をかけて少しずつ

「テーブルよし、椅子の整理よし、PCよし、
マガジンラックよし、コピー機よし、
カウンター……あ、鉛筆が折れてる!」

どうしよう、急がないと!
わたしはあわててカウンターの下から、
閲覧者が予約票を書き込むための、
鉛筆を出そうとした。
でも残念ながら鉛筆はどれも新品で、
削らなくてはならないものばかり。
図書館の開館時間まで、あと3分。
もう開館を知らせる音楽まで鳴り出した。
早くしないと、間に合わないかも。
衝動的にカウンターの鉛筆削りに手をのばすと、
指先にぶつかった鉛筆削りがカウンターから落ちて、
床一面に削りかすが広がってしまった。

「藤川さーん、そんなに急がなくて大丈夫だから」
うしろから、図書館の先輩の布田さんが笑いながら、
ハンディタイプの掃除機を持ってくる。
「はーい、すみません!」
内心の動揺を抑えて、極力明るく返事をする。
そうだ、ここは以前勤めていたIT会社とは違う。
急ぐことに、意味がないことの方が多い。
わたしは布田さんから掃除機を受け取り、
床にこぼれた削りかすを吸い込んだ。

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